デヴォン・アレキサンダー vs マルコス・マイダナ

<2012年2月25日 米国ミズーリセントルイス ウェルター級10回戦>

ボクサータイプとファイタータイプどちらが好きか?と聞かれれば、
「どちらかがより好きというわけではない」
というのが僕の答。


優れたボクサータイプが好きだし優れたファイタータイプも同時に好きなのです。
Fine Boxerと評価するための必須条件は、

  • あまり打たせないこと
  • ナチュラルなカウンターのタイミングを持っていること
  • 基本的に攻撃姿勢であること
  • 試合展開を変える戦術を複数用意できる引き出しがあること
  • 劣勢が続いてもターニングポイントを探る冷静さ、メンタルタフネスを持っていること
  • 攻撃の組立が単調ではないこと
  • ジャブを効果的に使えること

最低条件としてはこんな感じでしょうか。
他にもいろいろな要素があるのですがキリがないので止めておきます。
パンチ力は?
僕は必須条件ではないと思っています。
例えばフロイド・メイウェザーはFine Boxerですが、ハードヒッターではありません。
スピードとタイミング(これはボクシングの美学だと信じて疑いません)で倒しているのであって、要は予測できない状態でパンチをもらえば効いてしまうということだと思います。
決してパワフルである必要はないのです。
ジョー・フレージャーはファイターの代名詞のように言われますが、彼のボクシングは飛び抜けてパワフルなものではありません。パンチもないわけではないですが驚くほどではありません。
何が優れているかというと、攻守の連動性、得意の左フックを打ち込む過程(ディフェンス動作がパンチを繰り出す予備動作として機能している点)が良いから、あれほど見事なワンパンチフィニッシュシーンを演出できるのです。

デヴォン・アレキサンダーはハードヒッターではないです。
攻撃の組立のバリエーションもいかにも限られていて、まあ、どちらかというと単調な方かもしれません。
ただナチュラルタイミングを持っていて、特に右フックを当てる勘はパッキャオをも凌ぐと思います。
ゴリゴリと前進してくるマルコス・マイダナに対してシャープな右フックを当てまくりましたね、この試合。
ジャブの手数はそれほどではないのですが(サウスポーのジャブの名手自体オーソドックスに比べて少ない)左ショート(カウンター気味)でマイダナのアタックを止めていました。
やはりボクサータイプのアミア・カーンはマイダナ相手にこれが出来なかったことを考えるとこの試合のアレキサンダーには一定の評価を与えていいのではないでしょうか。
少なくともブルファイターを捌くためのケーススターディーと成り得る試合ではなかったかと。
マイダナのいいところ全然なかったですね。何故そうなったか。
アレキサンダーのディフェンス力が優れているからです。
マイダナのような一発屋タイプは攻撃を空回りさせられると何もアピールポイントがない見栄えの悪い出来になってしまいます。
この試合のマイダナはアタックを梳かされては右フックカウンターを貰うを繰り返すだけで負のスパイラルに陥って最後まで抜け出すことができませんでした。
倒されなかったことが唯一の評価ポイントでしょうか。タフネスを示したということで。
アレキサンダーはウェルター級にステージを移すようですが、またメジャータイトル獲得のチャンスを得るための路線に乗れたかもしれませんね。
ビクター・オルティスあたりよりも多分強いと思います。
打たせないもの。
もっとパンチが切れるとよりスタイリッシュで応援しがいのあるボクサーになるんですけどね。