印象に残るハードヒッター4

以前書いた原稿をそのまま引用します。ま、ネタ不足ということで。
70年代に活躍したミドルウェイト二人、ベニー・ブリスコとロドリゴバルデスを纏めて取り上げます。

【ミドル級10回戦 マービン・ハグラー vs ベニー・ブリスコ】

1978年のこの試合、フォーカスするのはハグラーではなくブリスコの方です。「印象に残るハードヒッター」のカテゴリーでフィラデルフィア出身のタフガイ、ベニー・ブリスコを取り上げたいと思います。
2003年にリング誌が発表した≪100 Greatest Punchers≫にもランキングされています。
カテゴリー的には彼が豪快にKO勝ちした試合を取り上げるのが常套でしょうが、負け試合のハグラー戦を今回チョイスしてみました。


ハグラー無冠時代のおそらく最も名前のある対戦者がブリスコでしょう。この試合前のハグラーの戦績が40勝2敗1引分33KO、ブリスコは60勝16敗6引分50KOです。
会場はフィラデルフィアスペクトラムですからブリスコの地元です。35歳のブリスコは72年にカルロス・モンソンの持つタイトルに挑んで負け、74年と77年にロドリゴバルデスと空位のWBCミドル級タイトルを争い負けと、結局3回のチャンスを逃し、ややロートル化しはじめた頃でしたからハグラーとしては名前のあるブリスコを踏み台にしてステイタスアップを図りたいという感じだったのではないでしょうか。
フィラデルフィアのファイターと言えばジョー・フレージャーを連想しますが、ブリスコはホームタウンのスターと同じスタイルで上体を振りながら前にグイグイ出てきます。そして重いパンチを上下に散らしながら相手を消耗させていきます。ブルファイターですが体を良く振るので動く標的となっているためそれほど打たれません。
この試合でもハグラーを追いまわし続けます。本来、ハグラーはこの手のファイターを得意としていて、例えばファン・ドミンゴ・ロルダンやムスタファ・ハムショを上手いこと捌いて最後は見事に仕留めているのですが、対ブリスコ戦はやや苦戦気味。ハグラーのフットワークについて来るんですねブリスコは。追い方が上手いのでしょう。ハグラーはフットワークとジャブでなんとか捌こうとしていますが怯まず前に出続ける圧力を持て余してしまってます。普通の選手はハグラーの強いジャブ、ランダムなタイミングで真っ直ぐ伸びてくる左ストレート、そしてオーソドックスなワンツーで距離を取られてかつダメージを与えられてしまうのですがタフガイ、ブリスコはものともせず前進を止めません。そして距離が詰ると重い左右のフックが時々ハグラーの顔面を捉えるためハグラー少し効き気味で終盤になると自らクリンチにいくシーンもしばしば。僕はハグラーのこんな様子は他の試合では見たことがないのでちょっとびっくり。ブリスコのラッシングパワーに感心しました。ハグラーは力の衰えたブリスコを少し舐めていたのかもしれませんね。そんな印象です。
試合トータルではハグラーの手数、的中率、そしてだれがどうみてもわかるスキルの差によって危なげないスコアで判定勝ちしますが、実際のスコア以上にハグラーは苦しかったのでは。
手数はハグラーが倍近く出してますが、キレこそないもののパンチングパワーはブリスコの方が上かもしれません。


【WBCミドル級タイトルマッチ ロドリゴバルデス vs ベニー・ブリスコ】

1974年の試合。ベニー・ブリスコ絡みでもう一発いきます。70年代のミドルウェイトの面子って僕は好きで思い入れがあるんですよね。というわけでバルデスvsブリスコを取り上げます。バルデスとブリスコは世界タイトルマッチで2回、ローカルタイトルマッチで1回戦っていて、まあ宿敵と言ってよいのでしょうが、結果はバルデスの3戦3勝(1KO)。
世代を代表するミドルウェイトといえばカルロス・モンソンでしょうが、無敵モンソンを最も苦しめたのがコロンビア人ロドリゴバルデスであり、二人の実力差はそれほどなかったと思います。バルデスはモンソンをダウンさせてますしね。モンソンとバルデスの関係はロベルト・デュランに対するエステバン・デヘススのような感じで知名度は落ちるけど力は拮抗しているライバルという僕の中での認識です。
先に取り上げたハグラーvsブリスコを観た後この試合を観るとバルデスの強さがより鮮明になります。ハグラーが苦戦した(僕はそう思ってます)ブリスコをものの見事に倒したこの試合はバルデスのベストバウトといって良く試合自体もファイター対ボクサーの噛み合った実に面白いものです。
バルデスの強みは全身これバネという感じの強靭なフィジカルとスピードです。ですからこの試合、頑強なブリスコと運動能力の高いバルデスという組み合わせなのですが、二人ともタフでハードヒッターですからエキサイティングな試合になります。3回も試合したのはファンが望んだからというのもあるでしょう。面白いもの。
この試合は空位のWBCタイトルを賭けた第2戦です。そしてトピックはなんと言ってもタフなブリスコが生涯最初で最後のKO負けを喫したということです。リング誌の≪100 Greatest Punchers≫の順位でもバルデスは29位と34位のブリスコや40位のモンソンより上位にランクされていることからも強打に対する評価が高いことが窺えます。ちなみにハグラーは35位。まあ順位とセレクションの信憑性はいかがなものか僕は判断つきませんけど識者の間ではバルデスはハードヒッターで通っているわけでして、その理由としてブリスコを倒していることが大きいのではないかと推察します。前述の バルデス>ブリスコ>ハグラー という順位はこの試合を観た人にとっては納得なのではないでしょうかね。フィニッシュとなった右フックカウンターワンパンチでブリスコの意識を飛ばしてしまうシーンはあまりにも強烈で印象に残りますから。衝撃度からしたら「マルティネスvsウィリアムスⅡ」の左のカウンター並ですね。実力者同士の戦いで拮抗した展開の中で唐突に瞬間的に起きてしまう出来事なためかそれを眼にした者はまるで稲妻に打たれたように衝撃を受けます。観客は自分がパンチをもらったわけではないのにね。刺激あるわ。特にブリスコのようにタフで鳴るボクサーがバッタリ倒れる場面は予想しないことが起きた驚きと衝撃にトリハダが立つもの。
この試合のインパクトが強いためでしょうが70年代のミドル級トップレベルで最もパンチがあったのはバルデスだと僕は思ってます。