印象に残るワンパンチ5


<1982/5/30 エドウィン・ロザリオ vs エドウィン・ビルエト / ラスベガス>

どういう基準でワンパンチKOシーンをセレクトしているかというと、先ず名前のあるボクサーであること、一昔前の試合であること、ハードヒッターという評価があること、倒されたボクサーがタフで鳴らしていたこと、そしてインパクトのある一撃であること、それらの条件を複合的に満たしているかどうかです。
例えば昨年見た試合で凄いワンパンチKOがあったとしてもそれは選びません。
ボクシングというスポーツは長い歴史があり、多くのボクサーがその歴史を彩ってきたわけです。
面白いのは、引退して(亡くなって)からもボクサーは評価をし続けられるということ。
現役のスターボクサーは過去の名ボクサーと比較され、そのボクサーが引退すれば、新たなライジングスターの比較材料になるのです。そうやって新陳代謝を繰り返しつつも、歴史の中に鮮明に名前を残している巨星も存在しています。
アリやシュガー・レイ・ロビンソンやジョー・ルイスやヘンリー・アームストロングがそうです。
マニー・パッキャオがファンを仰天させる大活躍をし続けていても、ボクシングの歴史の中での評価は前述のレジェンド達を超えることはありません。30年後であっても多分そうです。


シュガー・レイ・ロビンソンのファイトをリアルタイムで見ていた人は、仮に当時10歳の子供だったとしても現在70歳を超えています。
成人だった人達の多くは亡くなっている筈。
30年後の僕がマニー・パッキャオの素晴らしさを語っているでしょうか?
多分リアルタイムで観戦していたパッキャオよりビデオ映像でしか見たことのないロビンソンの素晴らしさを語っているような気がします。
ボクシングファンへの歴史の刷り込みは一歩間違えば懐古趣味へと変化してしまいますが、やはりアンタッチャブルな存在のクラシックボクサーはいつまでも変わらない面子だったりするのです。

前置きが長くなりましたが、今日取り上げるのはプエルトリコが生んだ早熟のハードヒッター、エドウィン・ロザリオです。
82年のエドウィン・ビルエト戦の右フックカウンター。
衝撃のワンパンチというと先ずこれが浮かぶほど脳裏に焼きついています。
相手のエドウィン・ビルエトは「岩石男」のニックネームを持つタフガイ。
ロベルト・デュランとは2戦2敗ですがいずれも最終ラウンドのゴングを聞いてますしダウンもしてません。デュランのライト級タイトル防衛戦でKO負けしなかった唯一の選手として名を上げています。
そのビルエトをワンパンチでノックアウトした右のカウンターの凄いこと。
タイミング、破壊力ともに満点。
さすがのビルエトも試合続行不可能な深刻なダメージを負ってしまいます。
この試合のロサリオは非の打ち所がありません。
スピードがありシャープで好戦的、変なガードとカニ歩きスタイルにはまだなってなくて普通のフォームで戦ってます。
ビルエトはロサリオの力強くスムーズな攻撃に初回から成す術がないという感じで後退を繰り返すのみ。
で、2回に右クロスでダウン、3回に右フックカウンターで沈んでしまいます。
ビルエトもスピードがあり調子が良さそうに見えるため余計ロサリオの強さが際立ちました。
当時ロサリオはWBCライト級1位で指名挑戦権を持ってましたがチャンピオンのアルゲリョがこの試合を見て対戦を拒否したのはファンの間では有名な話です。
そりゃこんな試合を見せられたらアルゲリョだってマッチメークを避けるでしょ。
当時ロサリオはライト級としては小柄でビルエト戦が133 1/2ポンドですからライト級リミットを下回っています。大柄なビルエトと体を合わせるといかにも小さく見えます。
ビルエト戦の前の試合が131ポンド、その前は130ポンド未満で戦ってますからスーパーフェザー〜フェザーウェイトの体格だったんですね。
ただパンチがあるので1クラス上で問題なく戦っていたのでしょう。
体が成長過程でまだ小さかった、つまり体全体の力はライト級トップレベルでは大した事なかったんですね。
ですからビルエト戦から1年後の最初のライト級タイトルマッチ、大柄なサウスポーのメキシカンファイターであるホセ・ルイス・ラミレス戦では体負けパワー負けして苦戦します。
地元でなんとか僅差の判定を拾いますが、再戦では自信満々のラミレスに圧倒され惨敗を喫してしまいます。
その後は以前ほどパンチのキレがなくなりダイナミックな攻撃力が影を潜めます。
それでもカマチョをあと一歩まで追い詰める試合をしてますし、トップレベルはキープしていました。
ハードヒッターの看板は下げずにいましたからね。上昇期のフリオ・セサール・チャベスには完敗してますがビルエト戦当時の実力を持ってチャベスと戦っていたら凄い試合になったでしょうね。タフなチャベスが倒されることも十分ありえたのではないでしょか。

30年前の試合ですが、今観返してもやっぱり凄いですね。
ライト級とJウェルター級でメジャータイトルを獲得していますが、選手としてのピークは20歳で挑んだライト級タイトルマッチ、対ラミレス戦の時すでに過ぎていたといわれています。
平仲明信に1RKO負けでタイトルを失った試合は見る影もないほど衰えていました。

ロザリオは34歳の若さで亡くなっています。

http://boxrec.com/list_bouts.php?human_id=610&cat=boxer