トーマス・ハーンズ考

 

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Thomas Hearns-BoxRec

 

デトロイトを拠点にしていた往年のスターボクサーを回顧しようと思ったきっかけは、NBAザイオン・ウィリアムソンを観たこと。

ザイオンくん、はっきり言ってデブなのだが、見た目から普通に想像できるプレーヤーイメージと実際のアクションのギャップが凄い。

その体格で何故にそんなに敏捷に動けて高く跳べるのか?

違和感ではなく良い意味での驚きを観戦者に与えるバスケットボールモンスターだ。

だいたいNBAにエントリーしてくるルーキーはヒョロヒョロでフィジカル的に物足りないものだが、ザイオンは既に他の先輩プレーヤーを圧倒している。

試合のスコアとかプレーヤーのスタッツ以上に彼の人間離れしたアクションにどうしても関心がいってしまう。

印象に残るポスターダンクもショボいレイアップも2点で変わりないのだけどね。

こういうプレーヤーは本当に稀有だと思うし大怪我さえしなければ間違いなくNBAアイコンになっていくのだろう。

つまりプレイのインパクトがザイオンくんは凄いよと。

 

ハーンズのニックネームは、『ヒットマン』『モーターシティ・コブラ』だが、

実際のファイター像も正にそこからイメージされる通りだったと思う。

僕はファイトレビューを書く際に個人的なレイティングを添えているのだけど、その一つ『スリル』とは、観戦していて感じるアクション的なインパクトの程度を★で表記している。

ハーンズの試合のレイティングをつけた場合、例えばピピノ・クエバス戦などはスリル★★★★★(マックス)となる。

他にはジョー・フレージャー-ボブ・フォスターとか、パッキャオ-ハットンとかはマックス評価かな。

観ていて残酷さすら感じるような衝撃的なノックアウトシーンの名演出家であり、

倒し屋という表現では安易に括れないほど圧倒的な能力が彼にはあった。

特に147ポンド〜154ポンドで戦っていた時。

185cmの長身と長い手足は見た目のインパクトも大。

ロングリーチファイターの代名詞になっていたほどだ。

そのサイズを持て余すどころか怪物じみたハンドスピードとキレで相手を圧倒する絵面は滅多にお目にかかれるものではなかった。

「うわっ!なんだこいつ!」

コアなボクシングファンですら驚嘆するオフェンスインパクト。

尋常でないハンドスピードから生み出されるコンタクトパワーも強烈の一言。

スピードとかパンチングパワーのインパクトだけで評価したら僕の長い観戦歴の中でハーンズがナンバーワンのモンスターだと思う。

彼の現役時代をリアルタイムで共有していたから尚更その感が強い。

懐古趣味を自覚してはいるが、同様のインパクトを他のファイターから受けたことはないな。

ハーンズはオンリーワンだったと思う。

「倒し屋」というのはオフェンシブファイターに対する最上級の評価なのだが、ハーンズは更にその上の位置づけだ。

無理やり言葉を当てはめると陳腐になりそうなので止めるが言いたいことは伝わるだろう。

ハーンズはパーフェクトなファイターではなかった。

むしろわかりやすい弱点を晒してもいた。

同等の体格とパンチングパワーのあるバークレーに連敗してやや評価を落としたこともあった。

打たれ弱さに関しては、割とキャリア初期からバレていたのだが、逆にね、それが呼び水になって相手がディフェンシブにならずに済んだのでないかと思っている。

「1発当てれば奴は倒れる」と誰にでも思わせていることでね。

 だから彼の打たれ弱さを単純に欠点とみなしていない。

耐久性に欠陥を備えていたからこそ速戦即決のスタイルに拘らなければいけない危機感をヒシヒシと感じさせることがあった。

例えばハグラー戦。

この試合、ハグラーの圧勝だったと思っているボクシングファンは多いだろう。

僕の感想は違う。

案外どっちに転ぶかわからない紙一重のクロスファイトだったのではないか。

あまりにも密度が濃すぎてわかりにくいのだが、ファーストラウンドにハーンズの右を直撃されてハグラーの体が揺れた瞬間があった。

あのパンチ、あと3cm顎に近かったら多分終わっていただろう。

というかタフなハグラーだから耐えることができたけど普通ならフィニッシュブローになっていてもおかしくなかった。

あのパンチに耐えたことでハグラーは勝機を手繰り寄せることができた。

僕はあの試合をそうみている。

守勢に回ったハーンズを攻略することはハグラーにとって難しいミッションではなかった。

だから圧勝劇に見えてしまっただけだ。

一瞬のタイミング、コンタクトポイントのずれが勝敗を分けたというと拡大解釈だと思われるだろうが、まあボクシングってそういうもん。

もしハーンズにアッパーがあればね。

ハグラーもそれがないのを知っていたからこそ強気に前に出れたのだろうが。

細かい芸や豊富な引き出しを必要としないほどのストロングワンパターンオフェンスだったとも。

スピーディーかつスナッピーなジャブや強烈な右に目を奪われるけど、意外と左フックの脇腹打ちが得意で多用していたんだよな。

デュラン戦など効果的に左で脇腹打っていた印象。

デュランの弱点って、実は腹なんだ。

それまであまり狙われていなかっただけで。

そう言えばハグラーもデュランのボディを良く攻めていた。

得意なはずのクロスレンジでイマイチ強みを発揮できなかった理由は(むしろミドルレンジでは五分に近い印象)腹打たれてキツかったからなのかも。

バークレーもデュランの腹攻めていたら負けなかっただろうに。