「ヘビーウェイトはでかくないとダメなのか? 」
先日行われたジョシュア-パーカー戦を観て、小柄なヘビーウェイトのスターボクサーは当分現れないだろうなと思ってしまった。
当代ヘビーウェイトの2強と言えばジョシュアとワイルダー。
それぞれ198cmと201cmと大柄な上に運動能力が高くスピードがある。
彼らは身体的な特徴を強みにしていて、それを生かしたボクシングをして現在のステータスを築いている。
長期に渡ったクリチコ政権を脅かす者がなかなか現れなかったのも、結局はサイズのアドバンテージが強固な障壁になっていたからだ。
サイズがあってスピードがあって運動能力が高ければ鬼に金棒。
ヘビーウェイトは体重にリミットがないから尚更の感。
同様にサイズが重要なNBAの世界。
正に大きいことが正義だ。
ただチームスポーツのバスケにはポジションがあり、小柄なポイントガードは実際にいるし十分活躍していたりする。
180cmのフロントコートはいないがバックコートならいる。
彼らの強みはボールハンドリングやシュートアキュラシーやクイックネスなのだろうか?
今のNBAはフォワードでもポイントガード並みのスキルを備えた強者がいる。
だから絶対的なアドバンテージは多分はない
小さいことを強みにできないのか?
大柄なプレーヤーにはない強み。
あると思う。アジリティだ。
狭い空間でキビキビと器用にスピーディーに動けること。
密集したディフェンスの隙間をすり抜けていくには小さいことがきっと武器になるはずだ。
大きいと入れない隙間に小さいからこそ入れるという理屈。
でかいヘビーウェイトと対峙した小さなヘビーウェイトがその理屈に基づいた戦術を取り入れることができないだろうか?
できる。
そのためには相手との距離を詰めることだ。
ロング〜ミドルレンジではサイズと運動能力に圧倒されていても、
クロスレンジなら背の低さやリーチの短さがハンディにはならないはず。
距離を自分に都合よく詰めることでアドバンテージを得る。
一旦ペースを掴んでしまえば逆にロングレンジでも互角以上に戦えたりする。
それがボクシングというもの。
自分が主導権を取るために試合中ボクサーは四苦八苦しているわけだから。
短身のデメリットを感じさせず、むしろそれを強みにしていたレジェンドの試合を観てみる。
先ずはみんな大好きロベルト・デュラン。
デュランは独特のオーラがあるせいかあまり小さく見えないが実際は170cm程度。
リーチは168cmだ。
ウェルターウェイトあたりが体格的な限界だったはずだが、節制とは無縁の日常が災いして体重を維持することができず、ブヨブヨの腹を揺らしながら自分より大きい相手と常に戦わなければならなかった。
そのこと自体決して褒められたことではない。
別の見方をするならば、彼のスタイルが体格のハンディを補っていたとも言えるのだ。
デュランはジャブを突きながら相手を追うのが実に上手い。
相手がジャブで応戦してきたらそいつをヘッドスリップでかわして次の瞬間ウィークサイドに侵入してしまう。
すっとね。
ジャブの差し合いで前に出れない時は上体をゆらゆらと傾がしせて相手の勢いをいなしつつ隙を窺う。
で、レスリングのタックルのような低い姿勢で急に懐に飛び込む。
結果的に得意な距離に持ち込むだけでなく相手が反撃しにくい 体の位置関係を作ってしまうのだ。
そして左で脇腹を叩き右アッパーを突き上げて、離れ際に右ストレートを叩き込む。
相手の反撃に対するリアクションもデュランは大変優れている。
至近距離で飛んでくるパンチをボディワークでかわしきってしまうスキルは感心するしかない。
お次はドワイト・ムハマド・カウイ。
トリビュート動画だがカウイの特徴をわかりやすく見せてくれる。
デュランよりも小さい169cmのライトヘビーウェイトだ。(クルーザーでも活躍するが彼の旬はライトヘビー時代だと思う)
カウイもデュラン同様ジャブの名手である。
ジャブがキーというよりジャブを突いて追うべきと言った方が良いか。
それとガード主体ではなくボディワーク主体のディフェンスルーティンが必須。
それこそディフェンスとオフェンスをスムーズに連動させる要素だから。
ディフェンスがオフェンス発動の切欠を作るという意味。
ガードを固めているとどうしてリアクションが一瞬遅れるし、よって相手のウィークサイドに侵入するのも難しい。
「虎穴に入らずんば虎子を得ず」
ただしリスクマネジメントの手段としてヘッドスリップやダッキングの上級スキルが必要だが。
それと人並み以上の耐久力。
もしもの被弾時の保険としてね。
デュランもカウイも全てが備わっているからからこのファイトスタイルを実践できた。
ところでキャッチ画像にタイソンを使ったことに特別な意味はない。
うそ、ある。
実は短身のスターヘビーウェイトを僕は待ち望んでいるのかもしれない。
アリに左フックを炸裂させて勝利を決定づけるダウンを奪ったフレージャー。
49戦無敗のまま引退した白人の誇りロッキー・マルシアノ。
そしてアイアン・マイク。
小柄だが皆倒し屋だった。
彼らのようなファイターがまた現れることを願って。