ジャマイカ出身のマッカラムを初めて知ったのはアユブ・カルレ戦の雑誌記事だったと記憶してます。
彼の全盛期(Jrミドルウェイト時代)のリアルタイムネタは他のボクサー同様活字メディアだけから得てました。
試合映像を見たのはずっと後になってから。
で、やはり実像と自分のイメージのギャップの大きいボクサーの一人でしたね。
ドナルド・カリーをワンパンチKOしたインパクトが強すぎて勝手にへんな妄想を膨らましてしまったせいかもしれませんが。
タイプ的にはキッド・ギャビランあたりが近い感じでしょうか。
長身痩せぎすのジャバー、上体が少し硬いせいか動きがギクシャクしているにもかかわらず攻防の連動性は極めてスムーズという妙なギャップが特徴。
でもってタフで耐久力抜群。
なぜ今マッカラムなのか?
僕が考える攻防兼備を体現しているタイプの典型だからです。
と同時にディフェンスマスター(フロイド・メイウェザーJrのようなリスクマネジメント意識過剰な)へのアンチテーゼとして。
攻防兼備の評価というのは、何もオフェンスもディフェンスも完璧という、まったく打たれずに相手を打ちまくるという極論のことではない。
通常どちらかに寄るのです、意識としてもね。
例えばメイはディフェンスに意識がより強く働いているし、
例えばプロボドニコフはオフェンス意識ばっかりだし、という具合。
要は攻守のバランスと駆け引き、そして多少打たれてもへっちゃらという耐久力があるかどうか。
持ち前のディフェンススキルで相手を空回りさせてやろうなんて意識は観客への冒瀆以外なにものでもない。
そんなものを観たいのは極々一部のテクニックオタだけ。
ハイライトはオフェンスであってしかるべきなのです。
ですからディフェンスは相手のオフェンスを受け止める手段であり自身のオフェンス発動の切欠にすぎない。
そいつをリング上で体現してくれたのがマッカラムなのです。
ボディスナッチャーというニックネームから何がしかをイメージしないほうが良いです。
ボクサーのニックネームは単なる宣伝文句。いい加減なものも多いしね。
『石の拳』はあまりにも有名ですが、それからイメージされる「豪腕で相手をなぎ倒す猛ファイター」では決してないと思います、デュランは。
マッカラムのベストバウトはカリー戦でしょうけど、個人的にピックアップしたいのはジェームス・トニー戦(3戦やってますが、特に1戦目かな)
攻防の密度の高さという点では突出しているクラッシックファイト。
トニーも攻防の連動性に特徴のあるファイターですから二人がマッチアップすればこうなるという。
クリンチ(つまり相手のオフェンスを無理やり抑え込む手段)がまったくないでしょう。
クリンチする必要がないのです。
そうせずとも相手のオフェンスを受け止められるから。お互いに。
トニーはマッカラムより上体が柔軟でボディワークが巧みな反面、横着なのか自分のポジションをほとんど変えないためメリットが相殺され気味。
マッカラムは細かいフットワークでポジションをアジャストすることでトニーのペースに巻き込まれていませんね。
通してみればトニーの方がやや力上位かなという印象ですが、やっぱりこの横着さがね。足を引っ張ってスコアに反映された感あり。
COMPUBOXのデータを見てみます。
ジェームス・トニー:340 / 823 41%
マイク・マッカラム:343 / 890 39%
結構お互いにパンチを当てあっていますね。
もっともその多くをボディワークで殺しているでしょうけど。
これが相手のオフェンスを受け止めるということです。
フルラウンドファイトのスタッツで20%を切るなんてのは受け止めているとはいいません。
ディフェンスにプライオリティを置いていないとそうはならない。
打ちにいけばどうしても打たれる、トップレベル同士のマッチアップにおいては。
だからオフェンシブなファイターほど耐久力が必要になる。
耐久力に自信がないとどうしても慎重なスタンスになり、あえて打たせるなんてことはできないから出来るだけ噛み合わないように相手にオフェンス力を発揮させないようにズレていく傾向なんですよね。
観る立場からすれば極めて退屈でストレスを感じる絵図らが展開されてしまう。
マッカラムの存在自体はマーケットの中で地味だったかもしれませんが彼のファイトスタイルは実に正統かつポジティブなものであり、ハグラーやレナードにも負けない高い実力を備えていたと思います。
レナードもハグラーもハーンズもマッカラムとは戦ってない。
運悪くマッチアップしてしまった、ドナルド・カリーやミルトン・マックローリーやジュリアン・ジャクソンは惨敗を喫してますし、ピーク時のジェームス・トニーですら引き分けるのが精一杯でした。
マッカラムはアンダーレイトだったのかもしれません。今振り返ると。