パッキャオの言い訳

パッキャオvsブラッドリーのジャッジのスコアが議論を呼んでいるようですが、どっちがよりポイントを多く取ったかについては、僕はあまり興味がありません。
どんなに騒いだって勝敗は覆いりませんし、秋に再戦も組まれるでしょうからそこでパッキャオが実力優位を証明すれば良いのです。
そもそもブラッドリー戦のパッキャオの出来は決して良くはなかったですからね。
デラホーヤ戦の後、パッキャオはウェルターウェイトでの体作りに成功しただけでなく技術的にも進歩を遂げて、コット戦やハットン戦のようなボクシングファンをビックリさせるような快勝劇を演じました。


パッキャオ株も上がるだけ上がりとんでもない評価とステイタスを得たわけですが、今振り返ってみれば実力的なピークはそこだったかなという気がします。
その後はフィジカルはまったく落ちていないどころかやや強さを増している感じですが、スキルの上達に関しては頭打ちの感は否めません。
対戦者もパッキャオを分析しているわけですから効果的なファイトプランを作りこまれてしまうのは時間の問題だったわけです。僕もパッキャオが負けるパターンをいつも試合前に考えるのが常でしたから。
今回の試合もブラッドリーがどんな戦略でパックマンに対するのか、そればかり注目しながら観戦しました。
ブラッドリーはそんな僕の期待に応えてくれるかのようにゲームプランに沿ったような戦い方を披露してくれたので、パッキャオの欠点、粗を浮き彫りにするような試合全体図を描いてくれたのではないかと思います。
おそらくブラッドリーは試合前の戦術練習の中でパッキャオの左を殺すディフェンスルーティンを体に染み込ませるようにしたのではないでしょうか。
パッキャオのストロングポイントは俊敏なフットワークと的中率抜群の強い左のストレートです。
パッキャオの左は、拳と言うより左肩が相手に向かっていくような強烈な伸びとキレとスピードを持っていて、わかっていても試合の中のどこかできっと喰ってしまうような的中率の高さも併せ持っている唯一無比の武器だったのですが、ブラッドリーは決定的な左を12Rの中で貰わずに済みました。
何故?
後ろに下がらなかったからです。
下がれば距離ができるので左が当たるタイミングを作ってしまいます。
パッキャオが手数をまとめてきてもボディワークと最小限のブロッキングで自分を守り、打ち終わりにカウンターを返すということを繰り返すことでパッキャオのリズムや距離感をどんどん狂わせ、攻撃の精度を低めていく狙い。
ブラッドリーはそんな思惑を持っていたように感じました。
そしてそれがある程度功奏したようにも。
パッキャオの攻撃が単調に写ったのは、左を当てようとする意識が強すぎて、つまり距離感を狂わされたまま無闇に手を出し続けていたからではないでしょうか。
相手の攻撃を無効化する防御は採点項目のひとつであり、これだけパッキャオを空回りさせれば、ジャッジが好印象をブラッドリーに持っても不思議ではないでしょう。
より考えてボクシングしているという印象もあるのでは?
ブラッドリーの方がよりインテリジェンスを持って戦略的に戦っている印象をリングサイドで観ているジャッジが持っていたのではないでしょうか。
プロボクシングというスポーツはガチンコ勝負であるために番狂わせがつきものですが、今回のブラッドリー戦は試合内容だけにフォーカスするとパッキャオにやや分があったように思いますから、明白な敗北というわけでなく、好戦的ではあったけども不正確で工夫のない試合ぶりがジャッジの受けを悪くしてしまっただけでしょう。
ただブラッドリーと再戦をしたときにパッキャオが別人のように良くなる可能性は少ないと思います。
よりフィジカルコンディションを上げることは出来てもスキルは今のままでしょうから、1戦目で12R戦い、特に後半はパッキャオをほぼ捌いていたブラッドリーはより自信を持って、より明確な戦略に基づいて戦うでしょうからやっかいですよ。

パッキャオは不世出のオフェンシブファイターだと、僕は思います。
ほぼオフェンス力だけでここまで上り詰めたファイターは他に例がないという意味です。
反面、攻防のバランスや完成度を磨くこと、あるいはキャリアに応じた狡賢さ(サッカーの世界で言うマリーシア的な)を身に付けることがないまま今に至ってしまったことで融通が利かない難しさもあるかと思います。
ローチはパッキャオの良いところを伸ばしただけであり、欠点を矯正するような指導は多分していないでしょう。
ですから今更、スタイルを変えることはできないでしょう。
加えて国会議員と二束のわらじですからボクシングに全てのエネルギーを注ぐわけにもいかない。

11月に行われるであろうブラッドリーとの再戦は連敗のリスク大、場合によっては引退の可能性も否定できないシビアな戦いになるかもしれません。
もう一度ボクシングファンを驚かせて欲しいというのが僕の本音なんですけどね。さてどうなるか。