以前書いた原稿の引用です。
日本人のクラシックファイターを取り上げたいと思います。
海老原博幸です。
なぜ海老原か?日本ボクシング史上最高の強打者だと思っているからです。
印象に残るハードヒッターシリーズとして海老原vsトーレス戦をレビューします。ボクシングファンにはあまりにも有名な試合ですけど。
海老原がキャリアを開始したのが1959年、引退したのが1969年ですから僕自身リアルタイムで彼の試合を見ていません。子どもの頃、民放の日本人選手の世界戦が早く終わると余った放送枠の中で「思い出の名勝負」と称して昔の試合のビデオを流してくれたんです。僕が海老原の試合を観たのは「思い出の名勝負」の中でした。フライ級タイトルを獲ったキングピッチ戦でしたが、それはそれは衝撃的でした。
「なんだこの左の強さは」
鋭角的な独特なアングルとタイミングで相手の顎を力点のブレなく打ち抜く感じで、左を喰った相手はききまくって戦闘不能状態になっており、立ち上がってきてもラッシュして決めてしまうのが海老原のKOパターンでした。タイプは違いますが左の強打に依存するスタイルとしてはビック・ダルチニアンやフライ〜フェザー級時代のパッキャオを無理やり同類項で括ってしまえなくもないかな。まあ、それほどのハードヒッター、ワンパンチフィニッシャーということがいいたいのです。左コブシを相手の急所一点にコンタクトしパワーを伝達する能力は持って生まれたものではないでしょうか。天才と称される所以です。フライ級世界タイトルを2度獲得、防衛0という実績以上にボクシング史に鮮明に名を刻んでいるクラシックファイターだと思います。日本人選手で海老原ほど強烈なインパクトを受けたボクサーは他にいません。KOアーティストのイメージを持てるボクサーも彼だけです。
この試合はロスのメモリアルコロシアムでの試合です。メキシカンのトーレスとしてはホームと言ってよくそんな状況で海老原会心のKO勝利を見せてくれます。この試合は世界フライ級タイトル挑戦者決定戦という名目でしたから勝者海老原はアルゼンチンの王者オラシオ・アカバジョへの挑戦権を獲得できたのですが翌年のアカバジョ戦は敗戦でした。この試合の海老原のパンチのキレは凄まじく、トーレスも後に世界タイトルホルダーになる強豪ですが海老原の左の強打を喰って7Rに失神KO負けです。海老原にロープに詰められて左で止めを刺されて失神して前のめりに倒れるシーンはハーンズがデュランを倒した場面がフラッシュバックされるほどの戦慄を覚えます。しかも敵地で。か、かっこ良過ぎる。
海老原を特徴付けるのは誰の目にも明らかな左の強打ですが、実はフットワークも素晴らしくてこの試合でもトーレスと無理に打ち合わず現代でもそうですがメキシカンファイターが苦手とする小刻みな出入りのフットワークを多用してます。海老原は68戦のキャリアで5敗しかしてませんがKO負けはありません。タフでガッツがあったのも確かでしょうがディフェンス力も高いレベルで備えていたと思います。断定できないのは僕自身海老原の試合は3試合しか観ていないからです。それでもインパクト大でしたが。
余談ですがこの試合のリングアナウンサー、ジミー・レノンではないでしょうか。息子と風貌も声質も話し方もそっくりですし、ロスをホームにしていたはずですから間違いないでしょう。ジミー・レノンに紹介される海老原というシチュエーションがボクオタには感動ものです。「フロムトキオー ジャパン.......ヒロユキ エビハラ」と活舌よい独特のハイトーンボイスが聴けます。
印象に残るハードヒッターとして東洋圏からあと1人取り上げたいのですが、実はそのボクサーの試合を見たことがありません。ですから印象に残りようがないので嘘になるのですが、情報だけで十分その資格を与えたくなるほどの伝説を残しているのです。名前はハーバード康。韓国籍のフェザーウェイトで68年〜72年頃日本のリングに頻繁に上がっていて印象に残るハードヒッターぶりを発揮していたようです。柴田国明を右アッパー一発で逆転KOした試合が特に有名です。世界タイトルとはまったく無縁でしたがワンパンチの破壊力は桁外れだったと当時観戦した人は語ってます。